キーワード事典

001.ナショナル・トラストを進める全国の会

 知床や天神崎など、国内各地で起こり始めたナショナル・トラスト運動の連絡・協力組織として、1983年2月に発足した。会長は知床100平方メートル運動を提唱した斜里町の元町長の藤谷豊氏。事務局は、当初、財団法人日本自然保護協会に籍を置き、自然環境保全法人いわゆるナショナル・トラスト法人の設立や寄付者への税の軽減をめざす制度改正の実現につとめた。1992年、社団法人日本ナショナル・トラスト協会に発展的に改組した。トップに戻る>>

002.大佛次郎(おさらぎ・じろう)

 小説家。「鞍馬天狗」「パリ燃ゆ」「天皇の世紀」など多数の名作を残した。鎌倉に住み、鶴岡八幡宮の裏山をはじめ、古都の自然と歴史的環境が開発と都市化の波に次々に破壊される現実を目の当たりにしたところ、英国のナショナル・トラストの活動に解決の糸口を見いだし、朝日新聞に「破壊される自然」を連載し、鎌倉風致保存会の結成を推進した。初めて我が国にナショナル・トラスト運動を起こした所以から、「ナショナル・トラストの父」とも呼ばれる。トップに戻る>>

003.破壊される自然

 小説家の大佛次郎氏の随筆。昭和40年(1965年)2月8日から5回、朝日新聞に連載され、『大佛次郎随筆全集第2巻、石の言葉』に収録されている。当時、奈良、京都、鎌倉などの古都の自然と歴史的環境が都市化と開発の波により破壊されていく事態を憂慮し、これと対比して、英国の環境が守られているのはナショナル・トラスト運動があるからと紹介した。これが契機になり、財団法人鎌倉風致保存会が生まれた。「過去に対する郷愁や未練によるものではなく、将来の日本人の美意識と品位のためである」と述べている。トップに戻る>>

004.一万人の一ポンド

 英国ナショナル・トラストは2005年現在、2500平方キロメートルの土地、1120キロメートルの美しい海岸線、300箇所以上の歴史的建造物と庭園、50近くの近代化遺産を保有・公開し、英国では民間最大の土地所有機関といわれ、また会員数は約340万人ボランティア数は43000人という巨大な組織である。
 寄附を募る際には、「ひとりの人の1万ポンドよりも、1万人の1ポンドずつを」を理念に掲げている。特定の組織や個人に過度に依存することには慎重なのである。トップに戻る>>

005.知床アピール

 1982年9月、北海道の斜里町で開かれた知床半島の原生林の復元をめざす「知床国立公園内100平方メートル運動」の5周年記念シンポジウムで採択されたアピール。各地のナショナル・トラスト関係者が初めて集まり討議した歴史的意義を評価し、以下の3つの決議をした。
 (1)さらに情報の交換、経験の交流を深める
 (2)税制、公益信託組織の実現、法制度の整備を目指す
 (3)国際交流をはかる
このアピールをもとに「ナショナル・トラストを進める全国の会」が翌年、結成された。トップに戻る>>

006.ナショナル・トラスト法 National Trust Act

 英国ナショナル・トラストは、1895年に発足したが、はじめは募金活動は活発ではなく啓蒙活動に留まっていた。しかし、この国民の自発的な運動を議会は高く評価し1907年、ナショナル・トラスト法を制定し法的に支持した。その第4条では、トラストの目的について「美しい、あるいは歴史的に重要な土地や建物を国民の利益のために永久に保存する」と明記した。そして譲渡不能などの数々の特権を認め、これを契機に運動は活発になった。トップに戻る>>

007.譲渡不能の特権

 英国議会が1907年に制定したナショナル・トラスト法(第21条)でナショナル・トラストだけに認めた特権。トラストが人々の募金や寄付で獲得し保存・管理している資産は、これらを売却したり抵当にいれたりすることを禁ずるとともに、政府といえども国会の特別の議決のない限り強制収用されることはないということを保証した。これにより寄贈者は安心してその財産を寄贈することが保証され、これを契機にナショナル・トラスト活動の基盤が確立した。トップに戻る>>

008.保存誓約

 英国では1937年のナショナル・トラスト法の改正で買取りだけではなく、貴重な資産の所有者とトラストが保存の契約を結び、両者が協力して資産を保護し、管理することを認めた。そのような資産には相続税の減額の特典が与えられる。しかしこれはあくまでも保護管理制度に対する補助的な手段とされている。トラストの保有資産の周囲を保存誓約することにより、周囲が開発され中心の保有資産の価値が損なわれることを防止することができるようになった。トップに戻る>>

009.アメニティ

 18世紀の後半から世界に先駆けて産業革命を起こした英国で生まれた環境の思想。工業化が進み都市に集中した下層住民の移住環境を改善するために、都市行政に携わる人々の間に育った価値観で200年たった今、国民共通の価値観になっている。快適環境の創造をめざし、数量化を越えた本質的な価値を重視する。「しかるべきものが、しかるべきところに存在する」ことを目指し、ナショナル・トラスト運動の根底にある価値観である。トップに戻る>>

010.古都保存法

 奈良、京都、鎌倉など我が国の古都での環境破壊が表面化しはじめた1960年代後半から、各地で自然や歴史的景観の保護を求める住民運動が活発になった。京都駅前の京都タワー建設反対運動や鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山を守る運動などに触発されて1966年「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」が制定された。
 「歴史的風土」とは「歴史上意義を有する建造物、遺跡などが周囲の自然的環境と一体をなして、古都の伝統と文化を具現化し形成している土地の状況」と定義し従来の都市計画法の風致地区制を強化している。「世論立法」といわれる。トップに戻る>>

011.サー・ロバート・ハンター Robert Hunter

 英国ナショナル・トラストの3人の創始者のひとり。初代の会長。弁護士で自然保護関係の訴訟に取組み、ロンドン北東のエピングの森を囲い込み(エンクロージャー)から解放し入会地を保護した経験をもとに、土地や建造物を買取り保存する発想を得たといわれる。入会地保存協会に属し、その経験から、単なる啓蒙のためのボランタリーな団体ではなく確固とした基盤をもつ法人組織の必要性を確信し、ナショナル・トラストを発足させた。(1844-1913年)トップに戻る>>

012.オクタビア・ヒル Octavia Hill

 ナショナル・トラスト運動の創立に参加した一人。ビクトリア時代中期の都市における労働者階級の生活環境は悲惨なものであった。このため、住宅改良運動やオープン・スペース運動に率先して携わった。フローレンス・ナイチンゲールと並んで19世紀の英国社会の改良運動に貢献した女性といわれる。「新しい団体にはカンパニーよりトラストという名を付けた方がいい。慈善的性格を強調すべきです」とハンター氏に手紙で提案したという。(1838-1912年)トップに戻る>>

013.ハードウィック・ローンスリー Hardwicke Rawnsley

 思想家としてまた芸術評論家で著名なジョン・ラスキンを通じ、オクタビア・ヒル女史の考えに共鳴しナショナル・トラストの創立者の一人となった。英国国教の教区牧師の仕事に打ち込む一方、湖水地方で自然保護運動に携わっていた。行動的で情熱的な雄弁家。「ハンターはナショナル・トラストのバックボーンであり、ヒルはそれを鼓舞し、ロンスリーはそれを宣伝し世に広める役をはたした」といわれる。(1851-1920年)トップに戻る>>

014.カントリーハウス

 英国貴族の地方にある邸宅。1930年代、英国各地で、カントリーハウスが重い相続税のために売却され、その結果、各地で美しい伝統的な建物が解体され、付帯する美術品や家具が散逸するようになった。そこでナショナル・トラスト法を改正し、維持管理費用を生み出す財産を付して邸宅をナショナル・トラストへ寄贈すれば相続税を免れ、邸宅を公開しつつ、その子孫は引き続きそこに住み続けることが認められるようになった。これを契機に各地の邸宅が保存されるようになった。トップに戻る>>

015.ネプチューン計画 Neptune Coastline Campaign

 1965年に発表されたこのキャンペーンは、第2次世界大戦後のナショナル・トラスト運動の中で、最も注目すべき業績のひとつである。1950年代から英国の海岸は、埋め立てなどの開発による改変が進んでいた。この事態を憂慮した英国ナショナル・トラストは、自然海岸の保存のための募金のキャンペーンと寄贈および保存の誓約の呼びかけを行なった。ローマ神話の海の神の名前を冠し、「ネプチューン計画」と名付けられたこのキャンペーンにより、現在、1100キロ以上の自然海岸が英国ナショナル・トラストの手で保護・管理・公開されている。トップに戻る>>

016.入浜権

 1960-70年代、高度成長経済によって、日本各地の自然海岸は埋め立てられた。そうした中で、「古来、海は万民のものである」との主張である「入浜権宣言」が、兵庫県高砂市の住民たちからなされ、その後、全国的な運動に発展した。折しも英国では英国ナショナル・トラストが展開する「ネプチューン計画」が成果をあげ影響を与えた。今日その主張は環境権の一部として常識となり、コモンズということでも定着してきている。
 なお、当時、入浜権運動を中心になって担った「入浜権運動推進全国連絡会議」および「高砂入浜権運動をすすめる会」は、現在、存在しない。トップに戻る>>

017.シビックトラスト Civic Trust

 「シビックトラスト」は英国のロンドンに本拠地を置く独立の慈善団体であり、1957年に設立された。シビックトラストに加盟しているローカル・アメニティ・ソサエテイが、実際に地域で活動を展開している。地域の環境の中でも「築かれた環境(built environment)」に重点を置き、人々が生活し、働いている地域に愛着を持ち、市民の自発的な活動により、まちづくりを行なうことを目指している。1967年には、シビックアメニテイ法(Civic Amenities Act1967)が議員立法により制定されている。トップに戻る>>

018.グラウンドワークトラスト Groundwork Trust

 英国の都市周縁部で1980年代に始まった環境改善活動。地域を構成する住民、企業、行政の三者が協力して専門組織を作り、身近な環境を見直し地域の環境を改善していく取り組み。現在では、全国組織であるグラウンドワーク事業団のもと、英国全土に設置された44ヶ所のグラウンドワークトラストが、実際の事業を行ない、年間4万人のボランティアの協力を得て年間約4000件のプロジェクトを展開している。ナショナル・トラスト運動との主な違いは、秀でた環境を守ることではなく悪化した環境を改善することに主眼を置く運動であり、行政との協力関係が欠かせない。
 日本では、1995年に財団法人日本グラウンドワーク協会が設立され、地域住民、企業、行政の三者が、パートナーシップを組み、協働して身近な地域の環境を持続的に、再生、改善、管理する活動を展開し、持続可能な地域社会を構築することを目的としている。トップに戻る>>